漏水対策工の選択

トンネル等構造物の漏水対策を実施する場合、次のような条件を考慮して工法を決定します。

条件

  1. 躯体の材質
  2. 部位・変状(打継ぎ目地、クラック、ジャンカなど)
  3. 補修の有無
  4. 漏水量
  5. 凍結
  6. 遊離石灰
  7. 覆工コンクリートの表面保護、剥落防止、補強工の必要性
  8. 建築限界
  9. 使用材料の耐久性
  10. 施工単価

上記の条件を考慮して漏水対策を決定しますが、覆工コンクリートの状況はトンネル毎に異なりますので注意が必要です。しかし、旧規格で造られているトンネルは覆工厚もコンクリートの品質も不均一の場合が多く、ジャンカ、コールドジョイント等不良コンクリートからの漏水は、広い範囲で面的な漏水となることがあります。この場合には線による漏水対策が不可能とされ、覆工コンクリート表面を覆う面的な漏水対策が実施されてきました。また、寒冷地における線導水工は導水路の凍結による剥離・破損が問題となり、やむを得ず同様の考慮がなされてきました。しかし寒冷地で発生した面導水工の剥落事故は、目視できる線導水工の存在を改めて認識させる結果になりました。

総合補修工事を実施する上で最も重要なのが覆工コンクリート面(打継ぎ目地=クラック・ジャンカ等)に発生する、線的漏水処理方法といえます。

1.躯体の材質

躯体がコンクリートで設置可能な厚みと強度が有れば施工できます。覆工コンクリート表面にタイルが貼付してある場合は、背面モルタルの存在(厚み)を確認して対応します。原則、タイル背面のモルタル(止水力が不足)は取り除きます。目地(導水工の突起)部は残してタイルを貼付けますが、クラックの場合はタイルで覆います。

条件
タイル貼り目地漏水対策状況
条件
吹付けモルタル部の漏水

躯体が「素掘り」「レンガ・石積み」「吹付けモルタル」等は基本的に斫り込みが出来ないので、アンカー止め等の面的な対応が基準となります。

2.部位・変状(打継ぎ目地、クラック、ジャンカなど)

どの場所(目地・クラック等)で発生しているか、漏水箇所の幅(劣化部を含む)はどうか、によって判断します。表面に化粧モルタルや既設の補修工等が実施され漏水箇所が目視出来ないときは、これらを斫り取って不良幅を確認します。線的漏水は問題ありませんが、ジャンカ等は面的漏水となることが多く、このような場合は断面止水工を併用した対策工法の検討が必要です。

条件
化粧モルタルの斫り状況
条件
ジャンカ部の面的漏水状況

3.補修の有無

既設の補修部の多くは時間の経過と共に風化・劣化が進行して再漏水し新たな補修対策が必要になり、その箇所に適切な工法とサイズでの再補修が求められます。また、漏水の激しい場所の多くが過去の補修箇所です。

条件
塩ビ管・モルタルによる漏水対策
条件
B3による漏水対策

4.漏水量

漏水を排水可能な通水断面と水圧に耐える事が必要です。

5.凍結

冬期における現地の凍結状況を確認することが必要です。

凍結の発生するトンネルにおいては、漏水対策工の選定は慎重に行う必要があります。この場合トンネルの坑口と中央部では凍結の発生状況が異なる場合がありますので、注意深く観察します。

6.遊離石灰

遊離石灰の多いトンネルは、導水工の端末(排水口)が閉塞する事があります。その場合、躯体と導水材の接着面が剥離して、その機能が失われていることがあります。この様な現象は、通水断面やサイズを大きくする事により機能低下をある程度抑える事ができます。この場合、スリーエス工法では導水路のVカット部をUカットまたは、箱型に斫ります。奥行きは30mmを基準としますが、この範囲を超えてより広い断面が必要な場合は、奥行きやサイズを大きくする変更を行います。

条件
標準規格断面
(Vカット)
条件
改良断面
(Uカット)
条件
改良断面
(箱型カット)
条件
樋端末部の遊離石灰
条件
線導水工の導水路閉塞

大量に遊離石灰が発生するトンネルに、面導水による漏水対策工を実施した場合、その背面には大量の遊離石灰が付着(溜まり)しますので、アーチ部上部を覆う場合は過重問題にも注意が必要です。また面導水工は、覆工コンクリート面の劣化状況等を確認することができないため、剥落事故が発生してはじめてその危険が把握される「後手対策となり、遊離石灰によるトラブルと共に、今後大きな問題となり得ます。

条件
面導水工に付着した遊離石灰
条件
面導水工に発生した劣化コンクリート

7.覆工コンクリートの表面保護、剥落防止、補強工の必要性

状況より対応(工法)が異なります。補強工事の大半は覆工コンクリート表面を覆うことになるので、下地処理としての漏水対策が重要となります。

条件
鋼板接着による補強
条件
炭素繊維シート貼りによる補強
条件
ポリマーモルタル増し厚補強
条件
炭素繊維シート・ロックボルト補強

8.建築限界

建築限界に余裕がない場合、覆工表面から突出した工法では車輌等の接触破損の可能性が上がります。この場合、覆工内に収まる工法の選定になります。

9.使用材料の耐久性

試験成績書等で確認します。

10.施工単価

長期間その機能を維持できる工法を選択する事で、施工単価だけでなく耐久性を考慮したランニングコストが重要です。ただし、緊急性を有した場合は簡易的に施工できる工法が優先されます。